特集記事〜製造業〜

【調査レポート】製造業の働き方改革に「在宅勤務」は定着するか?

現場主義を補完するITの活用が課題

時間や場所の制約を受けない働き方として在宅勤務が注目されている。日本政府が2017年3月に発表した「働き方改革実行計画」でも「柔軟な働き方がしやすい環境整備」は重点テーマの1つに位置づけられている。少子高齢化で労働力人口が確実に減少していく中にあって、企業は労働環境をどう整備していくべきか。ここでは、企業の在宅勤務制度導入状況に関する調査の結果を基に、主に製造業における在宅勤務の動向にスポットを当てて考察する。

文◎冨永裕子=ITアナリスト/ITコンサルタント
監修◎日経BPコンサルティング

もはや一部の企業のものではない在宅勤務

在宅勤務は、ワークライフバランスを重視する個人だけでなく、従業員の定着促進を図りたい企業にとってもメリットの大きい働き方として広がりを見せてきている。在宅勤務を制度として導入するか否かは、基本的には企業が従業員などの意向を踏まえ、業務の内容や現場での実態などを勘案して判断することになるが、ワークライフバランスの観点から在宅勤務を希望する従業員の存在などを随時把握し、在宅勤務の可能な業務の検討などを進めておくことが望まれる。

在宅勤務というと、外資系IT企業のような特定の業種で先行している勤務形態という印象が強いかもしれない。実際、日経BPコンサルティングのアンケートシステムAIDA(2017年3月実施)の調査結果を見ると、情報通信業で在宅勤務制度が導入されているとした回答の比率は全体より大きい。そうした中、製造業で在宅勤務制度が導入されているとする回答は24.4%と、全体よりも若干上回るものの、情報通信業に比べて後れを取っている状況がうかがえる(図1)。

出典:日経BPコンサルティングAIDA調査(2017年3月実施)

製造業では、在宅勤務制度が導入されていないとした回答の比率は4分の3を超えている。その要因としては、工場のような現場での作業が前提の業務比率が高く、全社員が平等に利用できないことなどがあると考えられる。自由記述欄を見ても「職務内容が在宅勤務に適さない」という意見が目立つ。

一方、在宅勤務制度があり、かつ利用意向もあるという回答の比率は9.0%と全体比では小さいものの、「勤務先で導入されていないが、利用したいと思っている」とする前向きな回答の比率が20.7%と全体よりも大きい。「勤務先で導入されていないし、利用しないと思う」とする回答比率が30.0%と全体よりも小さいことを踏まえると、業種独自の環境による制約はあるものの、製造業における在宅勤務制度の導入は、今後も伸びる可能性があるとみることもできる。

障壁となるのは労務管理方法やマネジメント体制の整備

では、これから在宅勤務制度の導入に取り組もうとしている企業は、どのような点に留意すべきだろうか。図2では在宅勤務制度を導入する際の障壁になり得るものを尋ねた結果を示している。製造業では、「モバイルワークを想定した就業規則や人事・評価制度になっていない」という制度導入前の準備負担の大きさを懸念する意見が最も多い。

出典:日経BPコンサルティングAIDA調査(2017年3月実施)

1つ目は、労務管理のやり方に関することだ。在宅勤務に関する労務管理の第一歩は、まず就業開始・終了の連絡をルール化し、目の前にいない社員が今働いているのかどうかを上司やチームのメンバーが把握できる仕組みづくりである。さらに在宅勤務中は、業務内容を共有し、その進捗状況を報告するなど、業務のプロセスを見える化することが重要である。それらを実現する上で、情報共有システムなどを活用すると、管理職・社員双方にとって負担の少ない労務管理が実現できる。

次に、製造業は全体比で「対面コミュニケーション不足を補う施策が不十分」「モバイルワークを想定したマネジメントスキルが不十分」を障壁として挙げる意見が多い。機器やセキュリティなどのIT環境よりも、マネジメントの課題を在宅勤務の障壁と捉える傾向が見られる。仕事の進捗状況の共有や、離れた場所で働く人とのコミュニケーション手段の確保という課題を持つことが裏付けされた格好だ。

日本の製造業には、三現主義(現場、現物、現実の3つの「現」)の徹底という企業風土が根付いており、「現場でなくては仕事にならない」という自由記述欄の意見に代表されるように、日々の課題解決プロセスでは現場を重視する。

三現主義は、机上だけで仕事をすることを戒める言葉であるが、全てを現場で行うべきということではない。課題解決プロセスの支援は本来ITが得意とするところである。例えば、三現主義に基づいて得られた情報をグループウェアの掲示板機能などで共有する。その掲示板上で確認や意見交換することで、スピーディに解決方法が出るケースもあるだろう。

さらに得られた数々のノウハウやナレッジを業務アプリに蓄積し、データベース化しておけば、他の現場で発生する課題解決の参考となり、業務効率化はもちろん、組織全体のスキルアップ効果も期待できる。

製造業においては、三現主義に基づく業務プロセスをITツールで見える化していくことから、在宅勤務を定着させるために必要なコミュニケーション基盤やマネジメント体制づくりが始まるのではなかろうか。

仕事のやり方が大きく変われば、そこで働く人の意識も変わる。今はまだ在宅勤務制度の整備が視野に入らないとしても、企業全体で場所にとらわれない働き方を肯定する機運を盛り上げていきたいところだ。まずは仕事のやり方の見直しから始めることをお勧めしたい。

冨永 裕子(とみなが・ゆうこ)

ITアナリスト/ITコンサルタント
2つのIT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトも経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタントとして活動中。新興技術領域やビジネステクノロジーを重点領域としている。

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