特集記事〜不動産取扱業〜

情報は隠す?共有する?成長が続く不動産企業の組織づくり

かつての不動産業界では、不動産会社と顧客との間に大きな情報格差があり、不動産会社は、多くの"隠し玉(超優良物件)"を持っていればいるほど業績を伸ばすことができた。そのため、「物件情報は早い者勝ち」「資料は隣の席の人にも見せない」といった慣習が長く続いてきた。

しかし昨今はインターネットでの物件情報の開示が進み、不動産会社と顧客との情報格差が縮小している。これまでのやり方を続けていては、価格競争に陥り、会社は疲弊してしまうに違いないという危機感が膨らんでいるのが現状だ。

そんな中、中国・四国エリアで年間契約件数No.1を誇り、2012年からは不動産の無人店舗「スタッフレスショップ」を全国展開、業績を伸ばしている企業がある。愛媛県松山市に本社を置く日本エイジェントだ。同社の取り組みとそれを生み出す企業文化について、経営企画推進室部長の樋口孝幸氏に話を伺った。

物件探しから契約成立後まで。リピート・口コミ効果を呼ぶ新サービス

―物件を探すお客様が来店するとスタッフが接客し、希望に当てはまる物件を紹介。関心の高い物件があれば、スタッフが同行し、内覧に行く。これが典型的な不動産業の接客スタイルですが、ここにはどんな課題が隠れていたのでしょうか。

従来の接客スタイルでは1組のお客様に対して1人のスタッフが対応します。そしてお客様は週末に集中するケースが多い。店舗にいるスタッフの人数は限られているので、スタッフが出払ってしまうと、新たにお客様が来店されても対応できず、チャンスロスとなってしまいます。ここにまず労働集約型接客スタイルの課題があります。

日本エイジェント 樋口孝幸氏

―なるほど確かにそうですね。

しかし、最近はお客様の来店目的に変化が現れてきています。お客様はWeb検索などで気になる物件をピックアップした状態で来店され、その物件についての質問や内覧を希望されることが増えています。日本エイジェントはそこに着目した新しいサービスを展開しています。

―どんなサービスなのでしょう?

商業施設のデッドスペースを有効利用した無人店舗「スタッフレスショップ」はその1つです。タッチパネルのモニターとプリンターを内蔵した端末と椅子がセットになっており、気軽にお部屋さがしができるスポットとしてお客さまにも好評です。

大型ショッピングモールや百貨店への導入件数は直営で5件、フランチャイズ展開分も加えると、全国で130店舗を超えています。

さらに当社独自の取り組みとしては、スタッフレスショップをご利用のお客様からのお問い合わせや相談に対し、パート社員がチャットでお客様に返信する「Web接客」をはじめ、内覧予約をされたお客様のご自宅から物件までをタクシーで無料送迎する「スタッフレス見学」、逆にスタッフだけが物件に行きLINE動画を利用して部屋の様子を生中継する「オンライン見学」なども始めています。

―お客様視点のサービス、素晴らしいですね。それに業務効率化も進みそうです。

業務を効率化して省力化できた分、お客様サービスに注力しています。賃貸物件にお住まいのお客様に対して、日常のさまざまな困りごとに昼夜を問わず駆け付け対応を行う「レスQおたすけ倶楽部」もその1つです。「コンロの火を消し忘れたかもしれない」「迷い込んできたゴキブリを退治してほしい」という連絡が入ると、レスQセンターのスタッフが現地まで行って確認・対応しています。

この他、「aZコミュ」という入居者様と弊社スタッフ、また入居者様同士が交流するコミュニティがあり、地元の祭りに一緒に参加したり、バーベキューや婚活パーティーなども開催しているんです。

―婚活パーティーまで!すごいですね。

当社の代表も『お客様が本当に求めているものは「安心で快適な生活」であって、部屋選びはその手段に過ぎない』とよく言っています。これからの不動産会社の差別化のポイントはそこにあると、私も思います。

こうしてお客様との関係を構築することで、「次に引っ越す時もまた日本エイジェントさんにお願いしたい!」「友だちが物件探しているから紹介するね」といった言葉もいただいています。

―不動産業界の接客スタイルの常識を打ち破るこれらのサービスについて反響はどうでしょうか?

不動産を扱う企業様からの問い合わせは年々増えています。現在は、日本全国へサービス展開しているものもあり、さらに海外からの問い合わせが増えてきたところです。

新しいビジネスを次々と生み出す企業文化は社内コミュニケーションから生まれた

―日本エイジェントでは、どうして新しい事業のアイデアを次々に具現化し、軌道に乗せていくことができるのでしょうか?

当社は社員間のコミュニケーションをとても大切にしており、社内での情報の発信・共有が非常に活発なことが1つの要因だと考えています。どの不動産会社同じだと思いますが、社員は多くの店舗に分散して働いており、一堂に会する機会はそれほどありません。放っておくとお互いの存在さえ知らず意識の持ち方もバラバラになってしまいます。

そこで全社的な情報共有を支える基盤として2001年に「サイボウズ Office」というグループウェアを導入し、コミュニケーションの活性化を図ってきました。

―グループウェアはすべての社員が利用しているのですか。

はい。当社には約140人の従業員がおり、20代の新卒社員から70歳以上のベテラン社員までいます。社長以下、全従業員で使いこなしています。

社内でのやりとりはメッセージ機能や掲示板機能を使っていて、メールより気軽に発信したりそれにコメントしたりできるのがいいですね。例えば新しいサービスを立ち上げるときも、どんなネーミングがよいのか社員にアイデアを求めるのですが、呼びかけるとアッという間に100件を超えるコメントが集まってきます。

この他、スケジュール管理や会議室の予約、社用車の手配、稟議など業務全般で利用するため、新入社員は最初にグループウェアの使い方の研修を受けることになっています。

―面白いですね! さらにユニークな使い方があればご紹介ください。

カスタムアプリで作成した「業務報告書」アプリで、全社員が終業時にその日の出来事を必ず書いてから帰ります。「よかったこと」「失敗したこと」などの項目があり、その内容は全社員に公開されています。参考になると思った取り組みに「いいね!」を付けたり、困っていることに対してはコメントを入れてアドバイスしたり、SNSのような形で交流が進んでいます。

―情報共有は大事だと分かっていてもなかなか継続できないという悩みもよく聞きます。御社の場合、何か楽しませる工夫があるのでしょうか?

成功も失敗も共有していくことが重要だと考えています。そこで当社では、毎月それらの事例の中から「お困りごと大賞」「お客様満足大賞」「業務KAIZEN大賞」「今月の注目大賞」に該当するものをピックアップし、さらに全社員の投票によって1位を決めるという取り組みを実施しています。そして受賞者を月に一度の全社員ミーティングの場で表彰しています。

日本エイジェントの社内を活性化している「サイボウズ Office」から「業務報告書」の画面

―なるほど!情報を公開した人が評価される仕組みがあったから、業務改善や課題解決につながるのですね。

各社員が持つ知識や経験、ノウハウを単にシステムを使って共有するだけでなく、1人ひとりのモチベーションを高め、社員同士のタテとヨコの関係をしっかりつくっていくことが重要です。長年にわたって使ってきたグループウェアは私たちにとってもはや空気のような存在。ここでのコミュニケーションを積み重ねてきたことによって、お客様の"感動"につながるアイデアを生み出す文化が育まれてきたのだと実感しています。

―社内だけでなく、2017年10月には、「REAL ESTATE AGENT AWARDS ~日本一決定戦~」(以下REAA)という不動産業界を対象としたアワードを開催し、大きな話題となったそうですね。

はい。同じ不動産業でよく情報交換をしていた石川県のクラスコさん、東京都のオーナーズエージェントさんと当社は、それぞれ独自に社内アワードを開催していました。それについてお互いに話すうちに、「各社で競い合うと、もっと面白いかも」という話になりまして......。だったら一緒にやって一番を決めようじゃないか!と盛り上がり、開催に至りました。

―アワードのコンセプトを教えてください。

とにかく実務に携わっている方であることを参加条件にしました。理想を語る場ではなく、実務を通じて見えてきた課題にどう取り組み、どんな効果や知見を得たのかを共有していただくのがアワードの主旨になっています。つまり、個人の知を業界の知にしたかったのです。

―審査はどのようにして行われるのでしょう?

審査のポイントは、「独自性」「応用性」「プレゼン力」「新規性」「影響力」の5つの要素。それぞれに審査が行われ、時代に必要なものの先端を実践している人が選ばれます。

弊社からエントリーした社員は働き方改革について発表し、おかげさまで3位に入賞することができました。

審査員特別賞を受賞した同社の松浦仁美さん。介護をきっかけに2つの社内制度「介護休業」「FA制度(フリーエージェント制度:自分の希望する部署へ異動希望を出せる制度)」を活用し、新しい働き方を実現した体験談を語った

―このイベントを実施していかがでしたか?

初開催にもかかわらず、イベント開始前から開場前に行列ができるほど観客も集まっています。情報は隠すことが慣習だった不動産業界で、情報を共有することの重要性に気づいた企業が増えていることを肌で感じました。また不動産業界全体にもそういう機運が高まってきているのだと実感しています。

まずはグループウェアなどITを活用して社内にあるたくさんの「個人の知」を社内で共有する文化を育てて「企業の知」とする。さらに、こういったイベントに参加していただくことで、「業界の知」となって不動産業界全体のレベルアップにつながっていけばいいなと思っています。

<まとめ>
不動産業界で生き残る企業のキーワードは「知の共有」。グループウェアなどの情報共有基盤の導入と、それを活用できる組織づくりに着手できるかどうかが、これからの不動産企業の行く末を大きく左右するであろう。

取材協力:株式会社日本エイジェント
https://www.nihon-agent.co.jp

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